ノーベル化学賞について

こんにちは!今日はノーベル化学賞の発表日でしたね!

今日は少し内容について解説したいと思います。

 

 

今年のノーベル化学賞

不斉有機触媒の開発

でした。

 

 

漢字ばかりでなんのこっちゃ!!と言う方もいると思うので

一つずつ解説していきます。

 

不斉有機触媒は3つの単語に分けられます。

不斉、有機、触媒、です。

触媒は日常でも用語として使うことがあるでしょう。

車のサイドミラーに使われる光触媒などは

聞いたことがあるのではないでしょうか。

 

触媒とは、反応の前後で自身は変化しないものの、

反応の速度を格段にあげてくれる魔法のような物質です。

 

光触媒の例で言いますと、車の表面についた汚れを、

触媒が作用して分解してくれます。

普通汚れはほっといてもなかなかすぐには無くなりませんよね。

でも、光触媒を使うとすごい速さで分解されて、

無害なものとなって落ちていきます。

さらに触媒は自身の構造が最終的に元の形に戻るので、

半永久的に汚れを分解し続けることができるのです!

まぁ実際は触媒も寿命があって、

繰り返し使っていくと活性が落ちていきますが、

それを補ってあまりある効果があるため、

化学の世界ではかなりのケースで反応に触媒を使います。

 

次に有機ですが、有機野菜などと言う言葉で

馴染みがあると思います。

化学でいう有機化合物とは、金属を含まず炭素を含む化合物で、

特に炭素、水素、酸素、窒素などから構成されることが多いです。

ケイ素やリンが入ることもありますが、とにかく

炭素が入って金属が入らない化合物と考えてください。

なぜ有機化合物が重要かというと、私たち人間の体は

ほぼ有機化合物で構成されているからです。

ナトリウムや鉄など、金属を一部含みますが、

体の臓器や皮膚は有機化合物で出来ています。

そのため、同じ有機化合物の影響を受けやすく、

薬や食べ物もそのほとんどが有機化合物で出来ています。

頭が痛い時に飲む薬だって、野菜ジュースだって、

全部有機化合物です。

だから、人間活動を行う上で有機化合物は

なくてはならないものです。

 

さらにもう一つ重要な特徴として、

燃やすことで二酸化炭素と水などの無害なものに

変化するという性質があります。

例えば公害で有名なカドミウムや水銀は、

燃やしても水に流してもその物質自体が残ります。

だから今ではそもそも使用することが厳しく制限されています。

一方有機化合物は、どんなに複雑な骨格を持とうと、

どんなに人間に影響がある性質を持とうと、

加熱することでいわゆる炭(と二酸化炭素と水など)に

変化してしまいます。

二酸化炭素地球温暖化の原因になる物質ですが、

一度放出されると回収が困難な有害な金属と違い、

植物の光合成によって酸素とエネルギーへと生まれ変わります。

なので、有機化合物をさまざまな分野に生かすことは

これからの地球を守っていく上でとても重要なことです。

 

 

最後に不斉ですが、これはかなり化学の専門的な知識が入ります。

化合物の中には、不斉と呼ばれる性質を持つものがあります。

不斉とは、構成する原子は全て同じだけど、

鏡写の関係にあって重ね合わせることができない

という性質のことです。

なんだか意味がわからないと思うので、例を出します。

右手と左手を目の前に出してください。

右手を鏡に写すと、まるで左手のように見えますよね。

でも実際、右手と左手は、全く同じ形ではありません。

両掌を合わせると、甲がそれぞれ外側を向いているため、

同じ形ではありません。

甲を同じ方向にして重ね合わせると、

右手の親指の位置が左手の小指の位置に

というように、これまた同じ形ではありません。

これが、不斉です。

 

なぜ不斉が重要なのかというと、

人間の体を構成する有機化合物(さっきやりましたね)

には不斉を持つものが多いためです。

例えばタンパク質を構成するアミノ酸は、

その一つ一つが不斉を持っています。

しかも、それら全て決まった片方の不斉化合物です。

例えるなら、人間の体が沢山の手のひらでできているとすると、

それらは全て右手でできており、

左手は一つも入っていません。

 

これは各個人単位ではなく、世界中の全人類が

右手だけで構成されています(あくまで例えです)

 

こんな不斉だらけの私たちですから、

当然与えられる刺激が不斉を持っている場合は

その不斉によって反応が異なります。

すなわち、薬の中に不斉化合物が入っていた場合、

右手と左手で効果が違うのです。

片方がもう片方の1000倍もの効果を持つなんてことも

当たり前のようにあります。

それどころか、片方は薬になるけれども

もう片方は毒になるなんてことも!

(サリドマイド事件という悲しい事件もありました)

 

すなわち、不斉化合物を選択的に作ることは

とても重要なことです。

しかし、これはかなりハードルが高いことです。

不斉化合物は、その特徴がとてもよく似ているため、

普通に作ると右手と左手は同じ量ずつできてしまいます。

 

これを選択的に合成するには、金属を触媒とするのが

かなり有効な手段となります。

しかし金属を使うと、毒性が気になります。

しかも使用用途が薬となると、

残留金属はかなり厳しく設定されます。

 

 

そこで、有機触媒の出番です。

有機触媒なら金属の残留も極限まで抑えられ、

薬の品質を担保する上でかなり有効な手段です。

しかし有機触媒はなかなか活性が低く、

金属触媒のように自在な不斉化合物の合成は

かなり高いハードルです。

それを達成したのが今回のノーベル賞の受賞理由となります。

 

筆者は大学、大学院時代にまさに

不斉有機触媒の研究に携わっていました。

ですので、今回のノーベル賞はかなり衝撃を受けました。

 

今回はかなり専門的な話となってしまいましたが、

少しでもノーベル賞を知る手助けになると嬉しいです。

 

今日もありがとうございました!